UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

放送大学『財政と現代の経済社会('19)』第9~10回

録画しておいた放送大学『財政と現代の経済社会('19)』の第9~10回を視聴しました。

 

法人税の課税根拠を考える上で、まず「法人実在説」と「法人擬制説」を理解しておく必要があります。

法人実在説は法人を株主とは切り離された「実体」とみなす立場、法人擬制説は法人を「株主の集合体」とみなす立場です。

法人と株主が独立した存在であるのであれば、法人には法人税を、株主には所得税を課せばよいわけですが、法人は株主の集合体なのであれば、理論的には法人税は必要ないということになります。

しかし、法人税が無いと株主に配当されない内部留保に対して課税することができなくなってしまうので、所得税の前取りとして法人税を課し、二重課税となる分については調整を行うわけですね。

また、これとは別に「『政策課税』としての法人税」も課税根拠として考えることができます。

法人は株主のために利潤を最大化しようとするので、公害を発生させるなど社会に害悪を与えてしまう可能性があります。

ですから、法人に対する課税を通じて、政府が法人をコントロールするわけですね。

 

経済がグローバル化すると、法人税率が低い国に企業が移転してしまうので、各国ともに法人税率を引き下げる「租税競争」に突入することになりました。

以前に「先進国の一人当たり実質GDP購買力平価ベース・2016年)」という記事で、先進各国の一人当たり実質GDPをグラフにしたのですが、ルクセンブルクが突出して高くなっています。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

なぜルクセンブルクの一人当たり実質GDPが高いのかというと、ルクセンブルクは税金が安い「タックスヘイブン租税回避地)」であり、多くのグローバル企業がヨーロッパ本社を置いているからです。

あるいは、本社や子会社を移転しなくても、タックスヘイブンに資産保有会社を設立することによって租税回避することもできます。

例えば、日本にある本社からタックスヘイブンにある資産保有会社に知的財産を資産移転し、資産保有会社からアメリカにある子会社に資産使用権の許諾を与えたとします。

そして、子会社から資産保有会社に特許料を支払えば、日本やアメリカでの租税を回避できるというわけです。

租税競争によって各国ともに法人税収がゼロに近づいていく「底辺への競争(Race to the Bottom)」が起きるかと思われましたが、法人税の課税ベース拡大により法人税収の減少は防がれています。

実際に起きているのは税源構成の変化で、各国ともに付加価値税社会保険料収入に頼るようになってきており、租税の水平的公平性や垂直的公平性、所得再分配機能が失われることになってしまいました。

 

問題はグローバル化により経済活動が国境を越えているのに、課税権力は未だに国家単位であることにあります。

ですから、各国が租税回避に対抗して国際協力を広げていく、あるいは、欧州連合(European Union:EU)や国際連合などの超国家機関が課税したり、複数国の政府が共同して課税を実施したりする「グローバルタックス」を導入する、といった方策が必要となってきます。

現在はまだグローバルタックスは導入されていませんが、EUは「金融取引税」導入を目指しています。

これは、ジェームズ・トービン(James Tobin, 1918-2002)の「トービン税」構想を基にしたもので、国際通貨取引などの金融取引に対して取引1回ごとに低い税率をかければ、頻繁に売り買いする投機家には重い税負担がかかり、頻繁に売り買いしない投資家にはほとんど税負担がかからないということになります。

特に現在では、コンピュータプログラムが自動で高速の売り買いを行う「高頻度取引」が行われているので、このような投機的取引を抑制することができます。

しかし、グローバルタックスが導入されると、課税権力への民主的なコントロール(財政民主主義)が失われてしまうことになります。

ですから、EUでは欧州市民による直接選挙で選出された議員で構成される「欧州議会」の権限が強化されています。

 

経済がグローバル化すると、所得税法人税を引き下げざるを得なくなり、付加価値税社会保険料に頼らざるを得なくなってきてしまうのですね。

そして、国際公共財の供給、グローバルな再分配、投機的資金の制御といったことを考えると、究極的には課税権力を国家から超国家機関へと移行させていくしかないんでしょう。

私が子どもの頃に見たテレビアニメには、『機動戦士ガンダム』の「地球連邦」や『超時空要塞マクロス』の「統合政府」といった世界政府が描かれていましたが、現実の世界もそのような方向へ進みつつあるようですね。

今はまだ世界政府樹立というのは夢物語ですが、日本も一国主義に陥ることなく、いかにして国際協調を進めていくかに尽力すべきなのではないかと思います。