UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

国が豊かになることは、お金の量が増えることではない

「国の借金なんてウソだ! 日本に財政問題など存在しない!!」と主張している人たちについては、いったい何を勘違いしているのか、なぜそんな馬鹿げた主張をしているのか、正直言ってよくわかりませんでした。

 

ちょっと思いついたのですが、もしかすると彼らは、「国が豊かになること=お金の量が増えること」と勘違いしているのではないでしょうか。

 

「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことを「マネーストック」といいますが、マネーストックを増やす方法は二つあります。

一つ目は、市中銀行(預貯金取扱金融機関)が信用創造することによって、マネーストックを増やすという方法です。

二つ目は、政府が国債を発行して民間金融機関が引き受け、政府が財政支出することによって、マネーストックを増やすという方法です。

二つ目の方法は、国債を引き受けるのは民間金融機関ですが、その原資は中央銀行による通貨の発行(マネタリーベースの供給)なので、本質的には中央銀行信用創造することによって、マネーストックを増やすという方法です。

中央銀行による信用創造なのですから、政府への貸し出し、国債の直接引き受けという方法も考えられますが、これらは財政法第5条により原則として禁止されています。

 

どちらの方法でもマネーストックが増えるので、民間の金融資産は増加します。

ということは、市中銀行の貸し出しが伸び悩んでいるのであれば、政府が国債を発行して財政支出することで、民間の金融資産を増加させてやればいい!

 

・・・もし、こう考えているのであれば、これは単純に間違っています。

「政府が国債を発行して財政支出することで、民間の金融資産を増加させることができる」ということは間違いではないのですが、それは必ずしも国が豊かになるということではありません。

国が豊かになるためには、金融資産が増加することではなく、経済が成長することが必要です。

極端な話、いくらお金があっても買えるものが何も無いのであれば豊かでもなんでもないわけで、お金がたくさんあるということが豊かなのではなく、お金で買える財やサービスがたくさんあるということが豊かなのです。

 

「経済学の父」と呼ばれるアダム・スミス(Adam Smith, 1723-1790)が登場するまでは、「重商主義(mercantilism)」と呼ばれる経済思想が有力でした。

重商主義では、基本的に国内に金銀が蓄積されることが国が豊かになることだと考えます。

当時は、金や銀といった貴金属が貨幣として用いられていたので、貴金属を獲得すれば国が豊かになると考えられていたわけですね。

そのためには、国内で消費する分を減らすなどして輸出を多くし、関税をかけるなどして輸入を少なくしてやればよいです。

しかし、これでは国内で消費できる財が少なくなってしまうので、国民は何も豊かになっていません・・・。

「国が豊かになること=国民の生活水準が向上すること」と考えるのであれば、保護貿易ではなく、自由貿易を採用したほうがよいです。

というわけで、重商主義を批判する形で、アダム・スミスによる近代的な経済学が花開いていくこととなりました。

 

現在では管理通貨制度が採用されているので、中央銀行はいくらでも貨幣(通貨)を発行することができます。

もし、重商主義的に考えるのであれば、「中央銀行の通貨発行=国富の増大」となるのかもしれません。

このように考えるのであれば、政府の財政赤字が増えれば増えるほど、国債残高が増えれば増えるほど、国は豊かになるということになりますね。

さすがに、18世紀までの経済思想で21世紀の経済について考えているとは思いもよりませんから、これは一般人には理解不能です。

頭の中が重商主義なのであれば、そりゃ、「経済学は間違っている!」とか、「自由貿易反対!」とか言い出すはずですよね・・・。

「経済成長率は実質ではなく、名目で見なければならない」とか意味不明なことを言い出すのも、なんとなくわかるような気がします。

 

これは何というか、いまだに「地球の周りを太陽が回っている」と考えているようなものです。

普通の人は、「太陽の周りを地球が回っている」ことを知っているので、そのことを前提に考えているし、話をしています。

天動説の枠組みで世界をとらえている人と、地動説の枠組みで世界をとらえている人が議論したら、話がかみ合わなくてお互いに理解不能なのも無理はありません。

 

確かに、私たちはお金をたくさん持っている人たちのことを「富裕層」と呼んでいるわけだし、実際に18世紀までそのような枠組みで経済をとらえていたのですから、理解できないこともないですが・・・。

しかし、このような考え方が一定の支持を集めるということは、いかに日本人の経済リテラシーが低いかを物語っているわけで、ちょっと暗澹とした気分になってきますねぇ・・・。

 

※追記:日本のマネーストックの推移については、以前「日本の貨幣流通速度(1967~2017年度)」の記事でグラフにしていますので、併せてご覧ください。

お金の量が増えれば国が豊かになるわけではないことが、すぐに理解できるのではないかと思います。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

※注:2019年1月31日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。