UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

仙谷由人元官房長官死去

民主党政権内閣官房長官法務大臣などを歴任した、元衆議院議員仙谷由人(せんごく・よしと)さんが11日に死去されました。

 

仙谷さんといえば、「暴力装置発言」が思い出されますね。

2010年11月18日の参議院予算委員会で、仙谷官房長官が「自衛隊暴力装置」と発言したとして、当時大きな問題となりました。

では、実際にどのような発言がなされたのか、国立国会図書館の国会会議録検索システムから「暴力装置発言」部分を引用してみたいと思います。

 

kokkai.ndl.go.jp

 

世耕弘成 これ、法の精神としては、国家公務員も地方公務員も自衛隊員も学校の先生も全く同じ精神ですよ。これ、国家公務員でこういう形で自衛隊と同じ精神で規制をされているということは、じゃ、霞が関の庁舎内においてもこういう入間であいさつされたような人は呼ばないということでよろしいんですか。

国務大臣仙谷由人君) 今、法の精神と言われました。公務員という世界では、同じように政治的な中立性が求められると思います。そしてさらに、この暴力装置でもある自衛隊……(発言する者あり)まあある種の、ある種の軍事組織でありますから……(発言する者あり)

委員長(前田武志君) お静かに願います。お静かに願います。

国務大臣仙谷由人君) 軍事組織でもありますから、これはシビリアンコントロールが利かなければならないと。それから、まあ戦前の、戦前の経験からしまして、決して……(発言する者あり)じゃ、実力組織というふうに訂正させてもらいます。実力組織でありますから……(発言する者あり)

委員長(前田武志君) 質疑者以外の方は質疑の妨げになります。御静粛に。

国務大臣仙谷由人君) 実力組織でありますから、これは特段の政治的な中立性が確保されなければならないということだと思います。これは、これは……(発言する者あり)新解釈じゃありません。やっぱりこれは戦前の経験を、いわゆる軍国主義という経験をして、その中で、中からも外からも非常にある種の政治性の強い働きかけやあるいはその行為に、それに呼応する動きが出てきてあのようなことになったわけでありますから、特に実力組織としてはより念を入れた特段の政治的な中立性が保障されるべきだと。そのために、一般の国家公務員ではここまでだということであっても、関与を疑われるような行為もやってはならないと、あるいはそれに巻き込まれるようなことにならないように注意してくださいよと、こういう通達だと思います。

世耕弘成 きちっと議事録に残す必要があるので、自衛隊のことを暴力装置とおっしゃいました。これ、現場の隊員のためにもきちっと撤回と謝罪をしてください。

国務大臣仙谷由人君) そのとおり撤回をして実力組織と言い換えます。

世耕弘成 謝罪、謝罪、謝罪も求めたんです。(発言する者あり)

委員長(前田武志君) 世耕委員、もう一度、もう一度御質疑ください。

世耕弘成 撤回だけじゃなくて謝罪もしてください。

国務大臣仙谷由人君) 法律上の用語としては不適当でございましたので、自衛隊の皆さん方には謝罪をいたします。

 

まずは、「暴力装置って何?」ということになりますが、これは社会学者のマックス・ヴェーバー(Max Webar, 1864-1920)による用語で、軍隊や警察などの実力組織のことを指します。

マックス・ヴェーバーは、主権国家を「合法的に暴力を独占している国家」と定義しました(これを「暴力の独占(Gewaltmonopol des Staates)」といいます)。

これは当たり前の話で、民兵や自警団が非合法的に暴力を行使しているような国家は、もはや近代国家としての体をなしていません。

国家が国家であるためには、「軍隊や警察などが合法的に暴力を独占していること」が必要であるわけですね。

言い換えれば、軍隊や警察は「いざとなったら暴力を行使することが許されている組織」ということになります。

そうであるからこそ仙谷さんが言っているように、一般の公務員以上に『特段の政治的な中立性が確保されなければならない』のですね。

 

・・・これのどこが「問題発言」なんでしょう???

問題があるとすれば、国民すべてが社会学について知識があるわけではありませんから、「暴力装置」と聞くとなんだか悪い印象を受けるということでしょうか。

ですから、仙谷さんはその場ですぐに「実力組織」と訂正し、発言を撤回して謝罪しています。

正直言って、謝罪する必要は全くないように思うのですが、自由民主党やマスコミは「問題発言」であるとして大々的に取り上げたので、大きな政治問題となってしまいました。

 

前年の2009年3月30日に行われた「第7回朝日アジアフェロー・フォーラム」では、自民党石破茂(いしば・しげる農林水産大臣が「暴力装置発言」をしています。

では、実際にどのような発言がなされたのか、朝日新聞デジタルから「暴力装置発言」部分を引用してみたいと思います。

 

www.asahi.com

 

 破綻国家においてどうしてテロは起こるのかというと、警察と軍隊という暴力装置を独占していないのであんなことが起こるのだということなんだろうと私は思っています。国家の定義というのは、警察と軍隊という暴力装置を合法的に所有するというのが国家の1つの定義のはずなので、ところが、それがなくなってしまうと、武力を統制する主体がなくなってしまってああいうことが起こるのだと。そしてまた、テロは貧困と圧政によって起こるというのは、それはうそで、貧困と圧政の見本みたいな国が近くにありますが、そこでテロがしょっちゅう起こっているという話はあんまり聞いたこともない。そこでテロは起こらない。

 

石破さんも、きちんとマックス・ヴェーバーの定義に基づいて話をしていることがわかりますね。

仙谷さんも石破さんも当たり前のことを当たり前に議論しているだけで、まったく問題はありません。

問題ないどころか、自衛隊暴力装置」という議論は、むしろ積極的にしなければならないのです。

 

どういうことかというと、自衛隊をきちんと暴力装置として認める」ということは、「自衛隊をきちんと軍隊として認める」ということなのです。

自衛隊は実質的には軍隊ですが、日本国憲法第9条第2項では『前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。』と定められているため、「自衛隊は実質的には軍隊だけど、軍隊ではない」というあいまいな状態に置かれてしまっているわけですね。

自衛隊が実質的な軍隊として存在し、また、国民の大多数がその必要性について認めている以上、日本国憲法第9条第2項を削除して、自衛隊を軍隊として認める」というのは、当然やらなければならないことなんです。

 

しかし、「軍隊を持たない国家」というのは確かに理想的かもしれないし、実際のところ、これまで「軍隊を持っていない」という建前でやってきたことは事実なので、憲法改正に反対する人が多いのは当たり前のことです。

ですから、反対意見を圧殺して強引に憲法改正を推し進めるなどということはあってはならず、「きちんと議論を深めて、国民の間に理解を広げていく」という地道な作業が必要なのです。

自衛隊暴力装置」という発言に対して「謝罪、謝罪、謝罪!!」などと叫んでいるのでは、きちんとした議論が深まりません。

 

仙谷さんは日本社会党出身の政治家ですが、「憲法改正絶対反対!」「自衛隊を廃止して非武装中立!」などと主張していたのではありません。

仙谷さんがどのように考えていたのかわかるインタビュー(2016年11月29日)がありましたので、産経ニュースから記事を引用してみたいと思います。

 

www.sankei.com

 

 私は「護憲的な改憲論」を唱えてきました。かつて「自衛隊暴力装置」と話して産経新聞にもボロンチョにたたかれたけど、自衛隊をきちんと憲法上に位置付けて、憲法がコントロールする規定を設けるべきだというのが私の論理ですよ。

 憲法には防衛に関する諸原則を書き込んでもいいし、そうでなければ「防衛費は国内総生産(GDP)の1%以内」「非核三原則」などを安全保障基本法などに書いてもいい。これは中国や韓国、北朝鮮とケンカするための話ではない。憲法改正をめぐり、自民党総裁選や国政選挙で「どちらが弱腰か強腰か」みたいなナショナリズムを沸騰させるような発想で、9条論争をしてはならないと。

 

自衛隊暴力装置」であるからこそ、仙谷さんが言っているように『自衛隊をきちんと憲法上に位置付けて、憲法がコントロールする規定を設けるべき』なんですね。

 

このような正しい議論をしていた仙谷さんですが、2012年衆院選で落選して政界引退となってしまいました。

そして、「謝罪、謝罪、謝罪」と言っていた世耕弘成(せこう・ひろしげ)参院議員が、今では「大臣(経済産業大臣内閣府特命担当大臣原子力損害賠償・廃炉等支援機構)、産業競争力担当大臣、ロシア経済分野協力担当大臣、原子力経済被害担当大臣)」ですよ(呆)

私は憲法9条改正を支持していますが、現在の自民党安倍内閣が行うことが良いことなのかは、ちょっと疑問に思います。

 

※注:2018年10月18日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。