UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

貨幣量が増えると、物価は上がる?

ちょっと間が空いてしまいましたが、今回は貨幣量と物価の関係について調べてみましょう。

 

アーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher, 1867-1947)は、貨幣数量説を「フィッシャーの交換方程式(Fisher's equation of exchange)」と呼ばれる簡単な方程式で表したんでしたよね。

 

MV=PT (M:貨幣量、V:貨幣の流通速度、P:物価、T:取引量)

 

「日本の貨幣流通速度(1967~2017年度)」の記事では、貨幣量として「マネーストック」を、物価×取引量として「名目国内総生産(名目GDP)」を用いることで貨幣の流通速度を求めました。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

「名目GDPGDPデフレーター/100×実質GDP」ですから、もし貨幣の流通速度が一定だとすると、マネーストックの増加率が実質GDPの増加率を上回ればGDPデフレーターは上昇(物価は上昇)し、マネーストックの増加率が実質GDPの増加率を下回ればGDPデフレーターは下降(物価は下落)するのではないかということが予測されます。

なぜ増加率を用いるのかというと、GDPデフレーターそのものが物価変動を表しているわけではなくて、GDPデフレーターの増加率が物価変動を表しているからです。

ときどき「GDPデフレーターが100を上回るとインフレ、100を下回るとデフレ」と勘違いしている人がいますが、そうではなくて、「GDPデフレーターの増加率がプラスであればインフレ、マイナスであればデフレ」なのです。

 

・・・というわけで、日本銀行内閣府の統計を基にして、マネーストック・実質GDPGDPデフレーターの前年度比増加率をグラフにしてみました。

 

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出典:日本銀行マネーストック」、内閣府国民経済計算(GDP統計)

 

マネーストックは貨幣の流通速度を求めた時と同じですが、今回は前年度比なので、1967~1998年度は「旧M2+CD(マネーサプライ統計)」、1998~2003年度は「M2+CD(マネーサプライ統計)」、2003~2017年度は「M2(マネーストック統計)」の数値を採用しています。

1998年度と2003年度の数値を重複して採用することで、不連続なデータを簡易的に接続しているわけですね。

今回は、そこから「(今年度-前年度)/前年度×100」で前年度比増加率を求めています。

実質GDPGDPデフレーターも貨幣の流通速度を求めた時と同じように、「2008SNA」「2008SNA簡易遡及」「1968SNA」のデータを用いています。

こちらも1980年度と1994年度の数値を重複して採用することで、不連続なデータを簡易的に接続しています。

2017年度の実質GDPGDPデフレーターの前年度比増加率は、2次速報値となっています。

 

1990年代初頭までは、「マネーストックの増加率が実質GDPの増加率を上回ると、GDPデフレーターが上昇(物価が上昇)する」という関係にあったことがわかります。

1970年代前半にマネーストックのグラフが跳ね上がっています(1971年度22.5%増、1972年度26.8%増、1973年度19.6%増)が、少し遅れてGDPデフレーターのグラフも跳ね上がっています(1973年度15.1%増、1974年度19.2%増)。

これがいわゆる「狂乱物価」と呼ばれているもので、日銀が金融緩和し過ぎてしまったために激しい物価上昇を引き起こしてしまい、1974年度の実質経済成長率(実質GDPの前年度比増加率)は-0.5%と戦後初めてのマイナス成長となってしまいました。

1980年代後半にもマネーストックが急増していますが、この時はインフレになる代わりに、大量の資金が土地や株式の取引に流れ込みました。

これがいわゆる「バブル景気」と呼ばれているもので、日銀が金融緩和し過ぎてしまったためにバブルを引き起こしてしまい、バブルが弾けた後の日本経済は悲惨なことになってしまいました。

日銀が金融緩和し過ぎがちになってしまうのは、政府から完全に独立しているわけではないので政治的な圧力に弱いからです。

そこで、1997年に日本銀行法が改正され、より「独立性」と「透明性」の向上を目指すことになったというわけですね。

 

1990年代以降は、マネーストック・実質GDPGDPデフレーターの増加率の関係がほとんど崩れてしまったことがわかります。

これは貨幣の流通速度を求めた時に見たとおり、マネーストックが増加しても貨幣の流通速度が低下してしまうので、貨幣の流通速度が一定という前提が失われてしまっているからです。

「貨幣量が増えれば、物価が上がる」という意味での貨幣数量説は成り立っていませんが、「フィッシャーの交換方程式」で見れば、マネーストックが2倍になっても貨幣の流通速度が2分の1になってしまうので左辺はあまり変わらず、右辺では実質GDPが少しずつ成長しているのでその分物価が下落していたわけで、こんな簡単な方程式なのに現状をうまく説明できていることがわかりますね。

 

「リフレ派」の経済学者たちは、「マネタリーベースを増やせば、マネーストックが増える」「マネーストックが増えれば、物価が上がる」「物価が上がれば、経済が成長する」と三重の間違いを犯していました。

ポール・クルーグマン(Paul Robin Krugman, 1953-)マサチューセッツ工科大学教授が主張していたのはこのようなことではなかったのですが、安倍晋三(あべ・しんぞう)首相も「デフレは貨幣現象であり、金融政策において変えていくことができる(2013年2月7日、衆議院予算委員会)」と貨幣数量説を基に説明していましたから、そうなんだと思ってアベノミクスを支持している人もいまだに多いのではないかと思います。

 

もちろん、どんな政策も最終的には「やってみなければわからない」のですが、それではただのギャンブルになってしまいます。

面倒くさいですがコツコツ勉強して正しい知識や理解を身に着けることで、政策の是非について正しく判断できる可能性は高まるのではないかと思っています。

 

※注:2018年7月29日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。