UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

日本の貨幣流通速度(1967~2017年度)

さて、前回は「貨幣数量説(quantity theory of money)」について取り上げましたので、この考え方が現在の日本にどのくらいあてはまるのか調べてみることにしましょう。

 

貨幣数量説は古くからある考え方ですが、アーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher, 1867-1947)はこれを「フィッシャーの交換方程式(Fisher's equation of exchange)」と呼ばれる簡単な方程式で表しました。

 

MV=PT (M:貨幣量、V:貨幣の流通速度、P:物価、T:取引量)

 

例えば、100円の商品が10個売れたとしたら、1000円札が1回使用されるはずです。

この場合は、1000円×1回=100円×10個で両辺は等しくなっています。

1000円札を受け取った人が別の100円の商品を10個買ったとすると、1000円×2回=100円×20個でやっぱり両辺は等しくなっています。

この方程式の左辺は「支払われた総額」、右辺は「購入された総額」なので、この方程式は常に成り立つことが明らかです。

 

では、この方程式を国全体に広げて考えてみると、右辺は購入された総額なので「名目国内総生産(名目GDP)」に置き換えることができます。

貨幣量は本当は「使用された貨幣量」ですが、「国全体の貨幣量」で考えることが可能です。

例えば、国全体の貨幣量が1万円でそのうち5000円が1回使われたとすると、本当は5000円×1回ですが、1万円×0.5回と考えることもできます。

国全体の貨幣量は「マネーストック」ですから、貨幣の流通速度は「名目GDPマネーストック」で計算できることがわかります。

ちなみに、私たちは普通「硬貨」のことを貨幣と呼びますが、経済学では「お金」のことを貨幣と呼びます。

日本銀行では通貨供給量マネーストック)について、どこまでをお金(通貨)に含めるかによって、M1・M2・M3・広義流動性の4種類の統計を発表しています。

 

・・・というわけで、1967~2017年度の日本の貨幣流通速度をグラフにしてみました。

 

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出典:日本銀行マネーストック」、内閣府国民経済計算(GDP統計)

 

マネーストックは、今回はM2(現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(譲渡性預金))を使用することにしました。

M2ならマネーサプライ統計のM2+CDと比較的連続しているので、旧M2+CDと合わせて1967年までさかのぼって分析することができます。

もっとも代表的な統計はM3なのですが、マネーサプライ統計のM3+CD-金銭信託と接続したとしても、1996年までしかさかのぼることができません。

というわけで、1967~1997年度は「旧M2+CD(マネーサプライ統計)」、1998~2002年度は「M2+CD(マネーサプライ統計)」、2003~2017年度は「M2(マネーストック統計)」となっています。

名目GDPは、現在は「2008SNA」という国際基準が採用されていますが、これは1994年以降のデータしかありません。

しかし、1980~1993年については簡易的な手法により遡及した参考系列がありますので、これを使用しました。

それ以前は、「1968SNA」という古い国際基準によるデータしかないので、これを使用しています。

というわけで、1967~1979年度は「1968SNA」、1980~1993年度は「2008SNA簡易遡及」、1994~2017年度は「2008SNA」となっています。

データが連続していないことを示すために、折れ線を途切れさせてグラフを作ってみたのですが、ちょっと見づらかったので今回は連続させています。

また、2017年度の名目GDPは2次速報値となっています。

 

貨幣流通速度は決して一定ではないものの、1990年代初頭まではマネーストックと名目GDPがほぼ同じように増加していることからわかるとおり、大きく変動するというわけでもありませんでした。

しかし、1990年代以降はマネーストックと名目GDPの間に大きな差が生まれ、貨幣流通速度が大きく低下していることがわかります。

 

なぜ、貨幣流通速度が低下してしまったのかというと、それは使われずに貯め込まれるお金が増えたからです。

ジョン・メイナード・ケインズJohn Maynard Keynes, 1883-1946)は、金融緩和で利子率がある程度の水準まで低下すると、いくら金融緩和してもそれ以上利子率が下がらなくなってしまい、金融政策は無効になると主張しました。

これを「流動性の罠(liquidity trap)」と言いますが、現在の日本はケインズの「流動性の罠」とはちょっと状況が違うものの、お金が使われずに貯め込まれてしまって通常の金融政策が効かないという点では、まさしくケインズの言った通りになっているわけですね。

 

ケインズの「流動性の罠」を解釈し直した上で、そこからの脱出方法を示してみせたのがポール・クルーグマン(Paul Robin Krugman, 1953-)マサチューセッツ工科大学教授で、その考え方をベースにして現在行われているのがアベノミクスということになります。

クルーグマンの「流動性の罠」論については、以前「日本のブレーク・イーブン・インフレ率(2012~2016年)」の記事で取り上げていますので、そちらも併せてご覧ください。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

さて、次回はいよいよ貨幣量と物価の関係について調べてみたいと思います。

 

※2018年7月19日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。