UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

通貨発行益の本質は、通貨発行から通貨回収までの時間差である

ここで、これまでの通貨発行益(シニョリッジ)についての議論をまとめておきましょう。

 

日本銀行は、民間金融機関から国債などを買い取り、代金を日銀当座預金に振り込むことによって通貨の発行(マネタリーベースの供給)を行っている。

・この場合は、買い取った国債などから得られる利息収入が通貨発行益となる。

・紙幣(日本銀行券)は、民間金融機関が日銀当座預金を引き出し、日銀券に交換することによって発行される。

・この場合、日銀の負債が当座預金から日銀券に変わるだけなので利益は発生せず、やはり買い取った国債などから得られる利息収入が通貨発行益となる。

・政府が貨幣(硬貨)を発行すると発行額分の通貨発行益が発生するが、回収すると回収額分のマイナスの通貨発行益(通貨回収損?)が発生する。

・日銀が通貨を発行しても、政府が通貨を発行しても、得られる通貨発行益に本質的な差は無く、採用している会計方法が違うだけに過ぎない。

 

「日銀が通貨を発行しても、政府が通貨を発行しても、得られる通貨発行益に本質的な差は無い」というところはちょっとわかりづらいように思いますので、詳しく説明したいと思います。

例えば、日銀・政府ともに通貨を1億円発行し、日銀は1億円の永久債を購入し、政府は歳入として1億円計上したとします。

わかりやすくするために利率は1%で変わらないとすると、日銀は永久に毎年100万円の利子を得られるということになります。

これは、「獨協大学森永卓郎教授「通貨発行益は450兆円」」の記事で論じた、「日銀が永久に国債を持ち続けたとしたら・・・」という話と同じですね。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

1年後に通貨を回収することになり、日銀は永久債を1億円で売却し、政府は歳出として1億円計上したとします。

この場合、日銀は利子100万円だけ儲かって、政府は何も儲かっていません。

「どうして、これが本質的に差は無いことになるのか! 日銀の方が儲かってるじゃないか!!」と思うかもしれませんが、通貨発行時点にさかのぼって考えてみましょう。

日銀が1年後に得られる利子100万円の現在価値は、100万円÷1.01=約99万円です。

政府は通貨発行により1億円を手にして、1年後に通貨回収により1億円を失うわけですが、1年後に失う1億円の現在価値は1億円÷1.01=約9901万円ですので、やっぱり約99万円儲かっていると考えることもできるのです。

もし、2年後に通貨を回収したとすると、日銀が2年後までに得られる利子200万円の現在価値は、100万円÷1.01+100万円÷1.01^2=約197万円です。

政府が2年後に失う1億円の現在価値は1億円÷1.01^2=約9803万円ですので、やっぱり約197万円儲かっています。

もし、∞(無限大)年後に通貨を回収したとすると・・・要するに、通貨を発行したまま回収しなかったとすると、日銀が永久に得られる利子100万円の現在価値は100万円÷0.01=1億円、政府は通貨発行時に1億円を手にするだけなのでやっぱり1億円、すなわち、通貨発行時に得られる「本質的な通貨発行益」は日銀も政府も変わらないことがわかります。

通貨を発行したのが日銀であろうが政府であろうが同じなので、「日銀が通貨を発行しても、政府が通貨を発行しても、得られる通貨発行益に本質的な差は無い」というわけですね。

 

要するに、1億円通貨発行して得られる「本質的な通貨発行益」は、通貨発行時の1億円と通貨回収時の1億円の現在価値の差に等しいわけで、「通貨発行益の本質は、通貨発行から通貨回収までの時間差である」ということになります。

通貨発行から通貨回収までの時間差を利用して、債券などに投資して利益を上げれば「実質的な通貨発行益」となりますが、何かに使ってしまえば「実質的な通貨発行益」はゼロです。

つまり、「本質的な通貨発行益」はあくまでも通貨発行時点での概念上の利益に過ぎず、実際にいくら儲かったという話ではありません。

実質的な通貨発行益」に注目すれば、通貨発行時にはまだ儲かってないので通貨発行益ゼロと考えてもよいし、通貨発行時に発行額分の利益を得て、通貨回収時に回収額分の損失が出ると考えてもよいです。

どちらの考え方(会計方法)を採用しても「本質的な通貨発行益」に差は無く、通貨発行益に限って言えば、「日銀が通貨を発行しても、政府が通貨を発行しても、どちらも同じ」ということになるのです。

 

最も重要なことは、日銀が通貨を発行しても、政府が通貨を発行しても、通貨発行そのものが利益を生むわけではないということです。

ここをきちんと理解していないと、「国の借金」をめぐる議論は無茶苦茶なものになってしまいます。

 

※注:2018年7月10日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。