UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

500円硬貨を発行した時の通貨発行益はいくら?

「国の借金」について考えるときに、通貨発行益(シニョリッジ)について正しく理解しておくことは非常に重要だと思いますので、さらに突っ込んで考えてみたいと思います。

 

前回は、「日本銀行が紙幣(日本銀行券)を発行することによる利益は無く、やはり国債などから得られる利息収入だけが通貨発行益となる」というお話でした。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

では、日本政府が貨幣(硬貨)を発行した時の通貨発行益はどうなるのでしょうか?

 

みなさんご存知の通り、現在の日本では日銀が紙幣である日銀券を、政府が貨幣である硬貨を発行しています。

政府が500円硬貨を発行した時の通貨発行益は・・・実は500円です。

ただし、政府はそのうち5%を貨幣回収準備資金として積み立てていますので、実際には475円。

さらに、硬貨を製造する際に製造コスト(原材料費など)がかかっていますので、仮に500円硬貨1枚を製造するのにかかる製造コストが50円 *1 だったとすると、実質的な通貨発行益は425円ということになります。

 

「ということは、500円硬貨を1兆枚発行すれば、通貨発行益は425兆円。このことに気づいた俺って、天才じゃね!?」みたいな人がたまにいますが、落ち着いてよく考えてみましょう。

まず、上記の説明は、製造した500円硬貨が実際に流通した場合です。

製造された硬貨は、日銀に引き渡された時点で通貨として発行されたことになるのですが、実際に流通している分の95%にあたる通貨発行益を国(中央政府)の一般会計に繰り入れることになっています。

流通せずに日銀の金庫に眠っている分については、国の一般会計には繰り入れられずに貨幣回収準備資金が増加することになります。

残念ながら、500円硬貨を1兆枚発行しても流通しないでしょうから、直接的には国の歳入は増えないということになりますが、国は貨幣回収準備資金を運用することで運用益を得ていますから、その増加分だけ利益となるということになります。

 

ただし、これは現行の制度がこうなっているというだけで、通貨発行益についての本質的な議論ではありませんよね。

というわけで、以降は実際に流通しなくても、発行した分だけ通貨発行益を計上することにしたとして考えてみましょう。

 

なぜ、政府は通貨発行益の5%を貨幣回収準備資金として積み立てているのかというと、500円硬貨を回収した時には、500円のマイナスの通貨発行益(通貨回収損?)が発生するからです。

古くなって使用に耐えなくなった500円硬貨を回収して鋳潰したとすると、政府は500円損をするわけですね。

実際にはいくらかの金属(銅と亜鉛とニッケル)が得られますので、それは次の硬貨製造にリサイクルされて、その分製造コストを引き下げるのに役立つということになりますが、このことによって利益を得られるわけではありません。

要するに、500円硬貨を発行する時に通貨発行益500円を計上したとしても、500円硬貨を回収する時にその通貨発行益は失われてしまうわけで、結局のところ通貨発行益はゼロ、あるいは、政府が貨幣回収準備資金を運用することによって得ている利益だけが通貨発行益と考えることもできるのです。

 

・・・あれ? この議論って、前々回に日銀の通貨発行益について考えた時と同じですよね。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

そうなんです、日銀と政府の通貨発行益の違いは、いつ通貨発行益を計上するかの違い、つまり、採用している会計方法が違うというだけのことなんです。

会計学でいえば、この場合に日銀が採用しているのは「発生主義会計」、政府が採用しているのは「現金主義会計」ということになります。

どちらを採用しても結果は同じですが、日銀はインフレになったら、国債を売却して速やかに通貨を回収する必要があります。

「現金主義会計」を採用したら、通貨発行の際に巨額の利益を、通貨回収の際に巨額の損失を計上することになってしまいます。

それに対して政府は、インフレだからといって500円硬貨を回収したりはしませんので問題ありませんが、その代わり、将来回収するときのために通貨発行益を積み立てておく必要があります。

かつては、通貨発行益の100%を積み立てていたのですが、1995年度以降は5%になっているので、会計上は回収するまでの間95%の利益が存在するということになります。

 

この日銀と政府の会計上の違いを利用するのが、いわゆる「政府紙幣」であるわけですね。

日銀が紙幣を発行しても通貨発行益は計上されませんが、政府が紙幣を発行すれば通貨発行益が計上されます。

その通貨発行益を利用して、財政出動してしまおうというわけです。

しかし、これまでに説明したことを理解していれば、「あれ? これは新しい財源でも何でもないよね・・・」ということにすぐ気づくと思います。

 

結局のところ、日銀が通貨を発行しても、政府が通貨を発行しても、通貨発行そのものが利益を生むわけではないので、残念ながら通貨発行益で財政再建するといったことはできないのですね(涙)

 

※注:2018年7月6日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。

*1:硬貨を製造している独立行政法人造幣局は製造原価を公表していませんが、使用されている金属の市場価格などから数十円程度と推測されているようです。