UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

獨協大学・森永卓郎教授「通貨発行益は450兆円」

さて、しばらくの間「国の借金」について考えてみようということで、今回は獨協大学森永卓郎(もりなが・たくろう)経済学部経済学科教授の主張を見てみたいと思います。

 

森永卓郎さんといえば、「モリタク」の愛称で知られるタレントや経済評論家としてのイメージが強いですが、2006年からは獨協大学の経済学部教授でもあります。

「どーせ、ほとんど勤務実態は無いんじゃないの?」と思ったら、獨協大学シラバスを見る限りでは、ちゃんと毎週「労働経済学」と「経済社会学」の講義を受け持っているようです(疑ってごめんなさい・・・笑)

それはさておき、今回はウェブマガジン『マガジン9』の連載記事「森永卓郎戦争と平和講座」から、「第78回:財務省にだまされてはいけない」を見てみることにしましょう。

 

maga9.jp

 

最初の方は、そんなに問題は無さそうです。

「国の資産のほとんどは売却可能」という主張には首をかしげますが、国の資産は950兆円で負債は1400兆円なので純債務は450兆円というのはおおむね正しいです(正確には、平成29年度末時点で純債務は約483兆円)。

ということは、国の資産を国道とか堤防とかの公共用財産を含めてすべて売り払ったとしても、借金が450兆円残るということになるわけです。

これを多いと見るか、少ないと見るかはいろいろな考え方があってよいと思うのですが、とりあえず国の財務状況はこのようになっているということですね。

ところが、問題なのはその先で、「通貨発行益が450兆円あるので、実際には無借金経営だ!」って主張してしまってるんですね。

どうしてこのような主張がマズいのか、ちょっと「通貨発行益(シニョリッジ)」について考えてみることにしましょう。

 

日本銀行はどのようにして通貨を発行しているかというと、民間金融機関から国債などを買い取り、代金を日銀当座預金の口座に振り込むことによって通貨の発行(マネタリーベースの供給)を行っています。

例えば、1億円の固定利付国債を日銀が購入するケースを考えてみましょう。

わかりやすくするために、償還期間は10年、利率1%で利払いは年1回 *1 、額面1億円分を1億円で購入したとします。

この時、日銀のバランスシート上では・・・

 

(借方) 国債1億円 (貸方) 当座預金1億円

 

・・・が増加することになります。

資産・負債ともに1億円ずつ増加しただけですから、この時点ではまだ日銀は儲かっていません。

日銀が儲かるのは1年後に利子100万円を受け取った時ですから、通貨発行益は1年間で100万円に過ぎないことがわかります。

つまり、日銀が1億円通貨発行したら1億円通貨発行益が生まれるわけではなくて、買い入れた国債などの利息収入分しか通貨発行益は生まれないのです。

実際に、2017年度の日銀の剰余金(純利益)は7647億円、そこから配当金などを支払って、国庫納付金は7265億円でした。

1年間に数十兆円ずつ通貨発行していても、得られる通貨発行益はこの程度なんですね。

 

しかし、10年後に償還された1億円でまた国債を買うということを繰り返して、永久に国債を持ち続けるとしたらどうでしょう?

わかりやすくするために、ずっと同じ条件で国債を購入できるとしたら、永久に毎年100万円ずつ利子を得られることになります。

この場合、永久に毎年100万円ずつ得られる利子の現在価値の合計は、100万円÷0.01=1億円なので *2 、日銀が1億円通貨発行した時点で1億円通貨発行益が生まれていると考えることもできるのです。

ですから、「マネタリーベース450兆円増=通貨発行益450兆円」と考えられなくもないのですが、この考え方には大きな問題があります。

それは、インフレになった時には、日銀は国債を売って通貨(マネタリーベース)を回収しなければならないからですね。

もし、通貨発行した時点で通貨発行益を計上してしまうと、今度は通貨を回収した時点でマイナスの通貨発行益(通貨回収損?)を計上しなくてはならなくなってしまいます。

通貨発行益450兆円あるからといって大規模な財政出動をして、その結果インフレになったら、あると思っていた通貨発行益450兆円がどんどん失われていってしまう。

そんなドンブリ勘定で財政運営していたら、わが国は本当に財政破綻しかねません。

ですから、日銀はこのような考え方は採用せず、実現した通貨発行益だけを利益として計上しているのですね。

日銀が「いや、インフレになっても絶対に国債は売らない!」というのであれば通貨発行益は減りませんが、それでは「インフレ税」という形で国民の資産が失われてしまうので、結局のところ国民の負担となってしまうのです。

 

それにしても、「国の借金」の議論になると、なぜこのような無理な話が出てくるんでしょうか?

森永さんは経済学部教授なのですから、ここで説明したようなことは当然知っているものと思われます。

国が債務超過に陥っているからといってすぐに財政破綻するわけではないのですから、冷静に議論すればいいだけのように思うのですが、どうして「国の借金」を無いことにしようとするんだろう???

 

素人でもすぐにおかしいとわかるような夢の解決策をいくら提示しても、議論が混乱するだけで得られるものは無いのではないかと思うのですが・・・。

 

※注:2018年7月2日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。

*1:実際の国債は、半年ごとに利子が支払われます。

*2:どうしてこのような計算になるのかは説明が大変なので、興味がある方は「永久年金」とか「永続価値」とかでググってみてください。