UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

日本のブレーク・イーブン・インフレ率(2012~2016年)

次に、1998年のポール・クルーグマン(Paul Robin Krugman)マサチューセッツ工科大学教授の「流動性の罠」論を見てみましょう。

 

まずは当時の状況を説明しておくと、1991年にバブル景気が崩壊し、日本経済は長期にわたって低迷が続いていました。

日本銀行は金融緩和を行い、1990年には6%だった公定歩合は0.5%にまで引き下げられていました。*1

政策金利引き下げの余地はほとんどなくなってしまい、もはや日銀にできることは何も無いのでしょうか・・・。

 

クルーグマン教授はこの日本の状況を、「流動性の罠(Liquidity trap)」に陥っているとしました。

流動性の罠」というのは、金融緩和によって利子率が一定水準以下に下がると、通常の金融政策が効かなくなってしまうことをいいます。

しかしクルーグマン教授は、だからといって何もできないなどということはなく、日銀がインフレ目標を設定して、目標達成まで徹底して金融緩和し続けると宣言すればよいと主張しました。

日銀が尋常じゃない勢いで金融緩和し続ければ、さすがにみんな将来的にはインフレになるだろうと予想するはずです。

 

実質金利名目金利-期待インフレ率(予想物価上昇率

 

・・・なので(これを「フィッシャー方程式」といいます)、名目金利は0%以下にできなくても、期待インフレ率を引き上げることで、さらに実質金利を引き下げることができるというわけです。

 

例えば、名目金利1%、予想物価上昇率2%のときに、100万円を借りてある商品を買ったとしましょう。

1年後には101万円を返す必要がありますが、その時その商品は102万円に値上がりしているはずです。

ということは、102万円の商品を手に入れて101万円を返済するのですから、1万円得しています!

つまりこの場合の実質金利はー1%となっているわけで、これなら企業はお金を借りて設備投資した方がいいと考えるでしょうし、普通の人も物価が上がる前に欲しいものを買った方がいいと考えるでしょう。

そうすれば、投資や消費が増えて経済が活発になり、銀行の貸し出しも増えて本当にインフレが実現するというわけですね。

 

・・・というわけで、財務省ホームページでブレーク・イーブン・インフレ率を調べてみました。

 

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出典:財務省物価連動国債

 

ブレーク・イーブン・インフレ率(break-even inflation rate:BEI)というのは、固定金利債とインフレ連動債の利回りの差のことです。

日本の場合、10年固定利付国債と10年物価連動国債の利回りの差によって計算されます。

物価連動国債は、物価(コアCPI)の変動に応じて元金額が変動する国債です。

要するに、インフレになれば元本も利子も増えるという国債なので、その売買価格を利用して市場関係者がどのくらいの物価上昇を予想しているのか(つまり、市場の期待インフレ率)を知ることができます。

 

見ての通り、2014年に1.4%くらいあったブレーク・イーブン・インフレ率が、2016年5月31日時点では0.382%にまで低下してしまっています。

ブレーク・イーブン・インフレ率から見ても、「アベノミクス第一の矢は、もはや失速しつつある」といえるのではないかと思います。

 

※注:2016年7月2日にAmebaブログにて投稿した記事を転載しています。

*1:この時すでに日本の政策金利は、公定歩合から無担保コール翌日物に移っていましたが、日銀は無担保コール翌日物の誘導目標を公表していませんでした。

1998年9月に決定された方針で0.25%という数字が初めて示され、翌1999年2月には0.15%に引き下げられて、いわゆる「ゼロ金利政策」が導入されることになります。