UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

放送大学『財政と現代の経済社会('19)』第7~8回

録画しておいた放送大学『財政と現代の経済社会('19)』の第7~8回を視聴しました。

財政学の「経費論(財政支出論)」「租税論」「公債論」「予算論」の4分野のうち、第7回からは租税論を扱うことになります。

 

まず抑えておかなければならない租税負担配分原理として、「応益原則」と「応能原則」、「水平的公平性」と「垂直的公平性」があります。

応益原則では納税者の公共財・サービスから受ける便益の量に応じて、応能原則では納税者の支払い能力に応じて、租税負担を配分します。

同じ所得の人には同額の税負担を求めるのが水平的公平性、所得の高い人ほど高額の税負担を求めるのが垂直的公平性です。

 

あらゆる所得が包括的に課税ベースに組み込まれる「包括的所得税」を中心とする租税体系では、法人税や資産課税(相続税や譲与税)は「所得税に対する補完税」として位置づけられます。

もし、企業の利潤のすべてが株主に配当されるのであれば法人税は必要ありませんが、企業内部に「留保利潤」として留保され続けると永久に課税を免れることになってしまうので、所得税とは別に法人税が必要となります。

また、資産価値の上昇分(キャピタル・ゲイン)を正確に補足して所得課税することは困難であるので、所得税とは別に資産課税が必要となります。

経済がグローバル化した今日、かつてのような包括的所得税は維持できなくなっていて、北欧諸国などは労働所得と資本所得を分けて課税する「二元的所得税」へと移行しています。

これは労働所得には累進税率を、資本所得には比例税率を適用する方式ですが、これにより資本が海外に流出しないようにしているわけですね。

 

所得税に累進税率を設定することで所得再分配政策の手段として用いることができますが、これは「限界効用逓減の法則」により経済学的に正当化することができます。

厚生経済学」と呼ばれる分野を確立したアーサー・セシル・ピグー(Arthur Cecil Pigou, 1877-1959)は、所得が1単位増加することにより追加的に得られる効用(=限界効用)は所得が増加するとともに減少していくので、高所得者から低所得者へと所得移転すれば全体的な社会的厚生を改善することができると考えました。

年収1000万円の人が1万円得るよりも、年収100万円の人が1万円得るほうが得られる満足(=効用)は大きいでしょうから、年収1000万円の人から年収100万円の人へ所得移転すれば、全体としての満足は増加するわけですね。

しかし、この考え方はライオネル・ロビンズ(Lionel Charles Robbins, 1898-1984)によって、効用というものは主観的なものであり数値で比較することができないと鋭く批判されることになってしまいました。

 

消費税(付加価値税)は、課税が貯蓄に対する阻害要因とならず、投資促進効果を持ち、租税回避行動を引き起こしにくく、低い税率でも多額の税収を上げるという点で優れた性質を持っています。

インボイス方式を採用すれば、取引業者間での相互牽制機能が働いて効果的に脱税を防ぎ、益税の発生も防ぐことができます。

日本の消費税はインボイス方式を採用していないことが問題となっていましたが、2023年10月より採用されることとなっています。

ただ、消費税には「逆進性」という大きな欠点があります。

消費税の逆進性問題の解決法としては、生活必需品への軽減税率の適用、給付付き税額控除、社会保障支出の充実といった方法があります。

 

最後に、東京財団政策研究所の森信茂樹(もりのぶ・しげき)研究主幹へのインタビューが流されましたが、逆進性の緩和については、高所得者に有利な軽減税率ではなく、低所得者に有利な給付付き税額控除を採用すべきだという意見でした。

公明党の主導により自由民主党公明党連立政権が採用したのは軽減税率ですが、旧民主党が主張していたのは給付付き税額控除の採用でした。

負担している消費税額は高所得者の方が多いのですから、軽減税率で得をするのも高所得者ということになります。

給付付き税額控除は、ミルトン・フリードマンMilton Friedman, 1912-2006)の「負の所得税」の考え方を改善したもので、ある程度の所得以下の低所得者に対しては税額控除で控除しきれない分の税金を還付するという制度です。

 

経済がグローバル化すると、昔のように所得税を中心とした税制は維持できず、やはり消費税を中心とした税制に移行せざるを得ないようですね・・・。

社会保障制度を維持するためには、広く薄く課税できる消費税が望ましいようにも思います。

しかし、最大の問題点は、低所得者ほど負担が重くなってしまう「逆進性」ですね。

経済のグローバル化は止めようがない以上、いかにして消費税の逆進性を緩和するかがポイントなのではないかと思います。

放送大学『現代経済学('19)』第14~15回

録画しておいた放送大学『現代経済学('19)』の第14~15回を視聴しました。

 

第14回では、アメリカ経済学会により40歳以下の経済学者に与えられるジョン・ベイツ・クラーク賞(John Bates Clark Medal)について紹介されていました。

取り上げられていたクラーク賞受賞者は、デヴィッド・カード(David Edward Card, 1956-)、スティーヴン・レヴィット(Steven David Levitt, 1967-)、マシュー・ラビン(Matthew Joel Rabin, 1963-)、エスター・デュフロ(Esther Duflo, 1972-)、ラジ・チェティ(Nadarajan "Raj" Chetty, 1979-)、マシュー・ゲンツコウ(Matthew Gentzkow, 1975-)で、「実証経済学(positive economics)」や「行動経済学(behavioral economics)」の分野で功績のあった経済学者たちです。

 

この中で日本でも名前が知られている経済学者と言えば、やはり『ヤバい経済学―悪ガキ教授が世の裏側を探検する(Freakonomics: a rogue economist explores the hidden side of everything)』がベストセラーとなったレヴィットでしょうか。

私が興味があるのは、カードとアラン・クルーガー(Alan Bennett Krueger, 1960-2019)による最低賃金引き上げについての分析ですね。

最低賃金を引き上げると、最低賃金で働いていた労働者の雇用が失われてしまうと考えられていますが、この共同研究によれば、最低賃金を引き上げても必ずしも雇用は減少しないということのようです。

急激に引き上げたりしなければ、雇用を悪化させることなく、低賃金労働者の所得向上を図ることができるかもしれません。

日本の最低賃金も、全国平均(あるいは、全国一律)で時給1000円程度まで引き上げる必要があるのではないでしょうか。

 

第15回では、ノーベル経済学賞を取り逃した経済学者について紹介されていました。

取り上げられていた経済学者は、ロイ・ハロッド(Roy Forbes Harrod, 1900-1978)と森嶋通夫(もりしま・みちお、1923~2004年)です。

 

2017年までのノーベル経済学賞受賞者79名のうち、アメリカ国籍は54名で全体の68%を占めています。

また、受賞時の在籍大学はシカゴ大学が13名となっており、シカゴ学派に属する経済学者が多く受賞していることがわかります。

残念ながらノーベル経済学賞は、新自由主義的な経済学にお墨付きを与える役割を果たしてきたのですね。

市場経済や資本主義に疑問を呈するような研究であれば、本人の意図はどうであれ、ノーベル経済学賞の受賞は難しくなってしまう。

ジョーン・ロビンソン(Joan Violet Robinson, 1903-1983)、ニコラス・カルドア(Nicholas Kaldor, 1908-1986)、ピエロ・スラッファ(Piero Sraffa, 1898-1983)、ミハウ・カレツキ(Michał Kalecki, 1899-1970)といった、イギリスで活躍したケインズ経済学者たちもことごとくノーベル経済学賞を取り逃しています。

 

ハロッドはケインズ経済学を動学化し、現在では「ハロッド=ドーマー・モデル」と呼ばれている経済成長理論を構築した経済学者です。

この理論では、安定的な経済成長率の実現は非常に困難という「不安定性原理(ナイフエッジ原理)」が導き出されてしまうので、これがノーベル経済学賞を取り逃す原因となったのかもしれません。

ノーベル経済学賞の功罪については様々な考え方があると思いますが、私は森嶋教授が語ったという言葉が結構重いように感じました。

 

「まあ、ノーベル経済学賞なんか、ないほうがいいね」

 

この『現代経済学('19)』は、ノーベル経済学賞受賞者の生い立ちや学問業績を振り返りながら、現代の経済学の潮流が学べるというとても面白い科目でした。

現代の経済学は行動経済学や実証経済学など、反証可能性のある科学として進化を続けているということがわかりました。

放送大学の講義は無料で視聴できるので、現代の経済学に興味がある方は再放送をチェックしてみてはいかがでしょうか。

放送大学『現代経済学('19)』第12~13回

録画しておいた放送大学『現代経済学('19)』の第12~13回を視聴しました。

 

第12回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、バーノン・スミス(Vernon Lomax Smith, 1927-)、ウィリアム・ヴィックリー(William Spencer Vickrey, 1914-1996)、アルヴィン・ロス(Alvin Elliot Roth, 1951-)で、三人とも「マーケットデザイン」の分野で功績のあった経済学者です。

 

スミスはエドワード・チェンバレン(Edward Hastings Chamberlin, 1899-1967)の経済実験を発展させ、「実験経済学(experimental economics)」と呼ばれる分野を確立しました。

ヴィックリーはオークション理論の分野で、「ヴィックリー・オークション(Vickrey-auction)」とも呼ばれる「二位価格オークション(second-price auction)」が、入札者が評価額を正直に入札する優れた方式であることを証明しました。

ロスはマッチング理論の分野で、ノーベル経済学賞を共同受賞することになるロイド・シャープレー(Lloyd Stowell Shapley, 1923-2016)が考案した「受入保留方式」と呼ばれるマッチング方法を活用し、病院と研修医のマッチング、学校と生徒のマッチングなどの問題を解決しました。

 

第13回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、ハーバート・サイモン(Herbert Alexander Simon, 1916-2001)、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman, 1934-)、リチャード・セイラー(Richard H. Thaler, 1945-)で、三人とも「行動経済学(behavioral economics)」の分野で功績のあった経済学者です。

 

サイモンは人間の合理性には限界(限定合理性)があり、「ヒューリスティクス(heuristics)」と呼ばれる経験則を用いて様々な選択を行っていることを明らかにしました。

カーネマンは、サイモンの理論を発展させて「行動経済学」と呼ばれる分野を確立した心理学者です。

合理的判断に基づいた最適解と経験則に基づいた現実解の間には「バイアス」による乖離があり、このことから「プロスペクト理論(Prospect theory)」と呼ばれる意思決定モデルを構築しました。

例えば、100%の確率で100万円もらえる選択肢Aと、80%の確率で200万円もらえるが20%の確率で1円ももらえない選択肢Bを選ばせると、多くの人は選択肢Aを選ぶ傾向があります。

数学の「期待値」の考え方を知っていれば、選択肢Aの期待値は100万円、選択肢Bの期待値は160万円であり、選択肢Bを選んだ方が得であることは明らかなのですが、人間は必ずしも合理的に判断するとは限らないのですね。

セイラーは「心理会計(メンタルアカウンティング)」や「ナッジ理論」など、行動経済学の発展に大きく貢献しました。

 

「経済学は現実には役に立たない」と言われることも多いですが、現在の経済学は、マーケットデザインや行動経済学といった「使える学問」として発展しているのですね。

この科目の主任講師である依田高典(いだ・たかのり)京都大学大学院経済学研究科教授も、専門は行動経済学であるようです。

 

伝統的な経済学では、経済的合理性に基づいて個人主義的に行動する「経済人(ホモ・エコノミクス、homo economicus)」が想定されているのですが、行動経済学はこれを真っ向から否定しているわけです。

当然のこととして、当初は経済学界からの風当たりが強く、ノーベル経済学賞受賞者のマートン・ミラー(Merton Howard Miller, 1923-2000)は「どの世代にも、間違った者が必ずいるものだ」と言ったんだとか。

 

考えてみれば、物理学者のアルバート・アインシュタイン(Albert Einstein, 1879-1955)だって、「神はサイコロを振らない」と言って量子力学を受け入れようとしなかったわけですよね。

新しい学問分野が受け入れられていく過程というのは、案外そのようなものなのかもしれません。

ですから、既存の学問を絶対視するのではなく、学問は常に発展して書き換えられていくものだということを念頭に置いておくことが、とても重要なのではないかと思います。