UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

先進国の実質経済成長率と実質一般政府支出増加率(2007~2016年)

Twitter上で、名目GDP伸び率と名目財政支出伸び率のグラフについて、「正の相関関係がある!」と主張している方がいらっしゃいました。

 

名目GDPと名目財政支出の伸び率をグラフにすれば、強い正の相関関係があるのは当たり前のことです。

これは少し考えれば誰でもわかることで、インフレ率の高い国では名目GDP伸び率も名目財政支出伸び率のどちらも高く、インフレ率の低い国ではどちらも低くなります。

結局このグラフでは、右上にインフレ率の高い国、左下にインフレ率の低い国が来るというだけのことであり、名目GDP伸び率と名目財政支出伸び率に強い正の相関関係があるのは当然のことなのです。

 

では、どうすればよいのかというと、単純に実質GDPと実質財政支出の伸び率でグラフを作ればよいのではないでしょうか。

・・・というわけで、国際通貨基金International Monetary FundIMF)ホームページで先進国の実質経済成長率と実質一般政府総支出増加率を調べて、散布図を作成して相関係数を求めてみました。

 

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出典:国際通貨基金World Economic Outlook Database April 2019

 

IMFの「世界経済見通し(World Economic Outlook)」のデータにより、先進国の実質経済成長率と実質一般政府総支出増加率を求めました。

「先進国」は、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)加盟36ヵ国としました。

36ヵ国すべてのデータが揃っている2016年までの10年間について、実質経済成長率を縦軸に、実質一般政府総支出増加率を横軸にして散布図を作成しています。

 

間違っているかもしれないので計算方法を書いておくと、実質経済成長率は2016年の自国通貨建て実質GDPから2007年の自国通貨建て実質GDPを引き、2007年の自国通貨建て実質GDPで割ることにより求めています。

実質一般政府総支出増加率は、2007年と2016年の一般政府総支出をそれぞれの年のGDPデフレーターで割ることにより実質一般政府総支出を求め、2016年の実質一般政府総支出から2007年の実質一般政府総支出を引き、2007年の実質一般政府総支出で割ることにより求めています。

 

結果は見ての通り、先進国の実質経済成長率と実質一般政府総支出増加率についても、強い相関があることがわかりました。

正直言って、「名目-名目」では強い相関があるが、「実質-実質」では弱い相関しかないのではないかと予想していました。

思ったより強い相関があることがわかって、少し驚いています。

 

ここで、気を付けなければならないのが、安易に相関関係から因果関係を導き出してしまうことです。

このグラフからは「実質一般政府総支出が増加すると、実質GDPが増加する」とも考えられるし、逆に「実質GDPが増加すると、実質一般政府総支出が増加する」とも考えられます。

前者については、「政府支出を増やすとGDPが増える」ということなのでわかりやすいですが、後者についてはアドルフ・ワグナー(Adolf Heinrich Gotthilf Wagner, 1835-1917)の「経費膨張の法則」が考えられると思います。

経済が発展するにつれて政府の役割も高度化・複雑化し、政府支出も増加していくだろうと思うのですが、今回は対象を先進国に絞った直近10年間のデータなので、これがどこまで当てはまるのかはよくわかりません。

 

安易に結論は導き出せないものの、「政府支出を増やすことで、経済成長を促すことができる」という可能性は否定できないのではないでしょうか。

やはり「小さな政府」を目指すのではなく、政府が人的資本に十分な投資を行う「大きな政府」を目指したほうがよいのではないかと思います。

 

追記:

統計学の知識が足りていないので、グラフの作成方法など間違っているところがあれば教えてもらえると嬉しいです。

BS-TBS『報道1930』「日本はいくら借金しても大丈夫!? ”異端”の「MMT」とは」

録画しておいたBS-TBS『報道1930』「日本はいくら借金しても大丈夫!? ”異端”の「MMT」とは」を視聴しました。

 

ゲストは、自由民主党西田昌司(にしだ・しょうじ)参議院議員朝日新聞の原真人(はら・まこと)編集委員でした。

最近話題になっているMMT(現代貨幣理論、Modern Monetary Theory)についての特集だったのですが、どんな理論も西田議員が説明すると嘘くさく聞こえてしまうのは私だけでしょうか(汗)

なにしろ西田議員は、「子ども手当」政策について『究極の借金つけ回し』と主張していたくらいなのですから・・・。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

MMTに基づいて考えれば、少子化対策のような重要政策は、財源など気にせずに思い切って実行すべきだったということになりますよね?

「いつの間にか、言っていることが180度変わっている」みたいな人は、そりゃ信用されないでしょ。

自民党の安藤裕(あんどう・ひろし)衆議院議員が開催している勉強会の映像では、経済評論家の三橋貴明(みつはし・たかあき)さんが講師を務めていて、うさん臭さ倍増です(汗)

私はMMTには肯定的なのですが、どうして「この人どうなんだろう?」と思う人ばかりがMMTを広めているのか、ちょっと疑問です。

 

それはさておき、番組ではMMTを「いくら借金(国債発行)してもよい」という理論だと紹介していました。

これは、正しくは「インフレにならない限り、いくら借金(国債発行)してもよい」という理論ですよね。

ここをしっかり押さえておかないと、誰だって「そんなうまい話があるわけないだろ!」ってことになってしまいます。

 

MMTに対する疑問として、「財政破綻」「円暴落」「激しいインフレ」の三つが挙げられていましたが、やはり懸念されるのは激しいインフレですよね。

私は、MMTの問題点はインフレに集約されるのではないかと思っています。

政府がどんどん財政出動していけば、いつかはインフレになるでしょう。

このとき、うまくインフレを制御できるのか、制御不能なインフレにならないのかというところが、もっとも懸念されるところだろうと思います。

この点に対して、西田議員は「ならないんです!」と言うばかりで、具体的に「インフレを防ぐ手段として、このような仕組みを用意します」といった説明をまったくしないので、怪しさばかりが募ってしまっているように感じました。

MMTではJGP(雇用保証ブログラム、Job Guarantee Program)を提唱していて、これがインフレを防ぐビルトイン・スタビライザーとして働きます」のような説明であれば、納得する人も増えるのではないでしょうか。

 

私は、MMTの貨幣システムに対する考え方は正しいような気がしますが、そこから「政府の国債発行は打ち出の小づち」みたいな結論を導き出すと、おかしなことになってしまうのではないかと思っています。

ちょっと考えると「打ち出の小づち」のようにも思えますが、実際には「インフレ税」で返済するというだけのことかもしれません。

確かに、政府が国債を発行して市中銀行が引き受け、政府が財政支出することで民間の金融資産を増加させることができますが、貨幣需要がないところにむりやり貨幣を供給しても、貯め込まれて貨幣流通速度が低下するだけのように思います。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

日本の場合、貨幣量が不足しているわけではないのだから、やはり所得再分配(富の再分配)を強化して、お金がぐるぐる回るようにしてやることが大事なのではないでしょうか?

所得税最高税率引き上げや金融所得課税の強化など、高所得層に課税するというのが本筋なのではないかと思います。

MMTが言っているのは、「徴税が先、財政支出が後」じゃなくて、「財政支出が先、徴税が後」でまったく問題がないということだろうと思います。

ここで気を付けなければならないのは、MMTは「徴税しなくていい」という理論ではないということです。

たまに「MMTで無税国家が可能だ!」みたいなことを言っている人がいますが、そんな話ではなく、これはもっと現実的な理論であると思います。

 

これからも、いろいろな報道番組でMMTが取り上げられるんでしょうね。

今はまだ、議論がとっ散らかっている状態だと思いますが、私も少しずつ理解を深めていきたいと思っています。

放送大学『現代経済学('19)』第4~5回

録画しておいた放送大学『現代経済学('19)』の第4~5回を視聴しました。

 

第4回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、ローレンス・クライン(Lawrence Robert Klein, 1920-2013)、ジェームズ・ヘックマン(James Joseph Heckman, 1944-)、クリストファー・シムズ(Christopher Albert Sims, 1942-)で、三人とも「計量経済学」の分野で功績のあった経済学者です。

ヘックマンは、社会的成功のためには知能指数(Intelligence Quotient:IQ)のような認知能力ではなく、心の知能指数(Emotional Intelligence Quotient:EQ)のような非認知能力が重要であるとする、「ペリー就学前プロジェクト」の研究でも有名です。

シムズは「物価水準の財政理論(Fiscal Theory of the Price Level:FTPL)」でも話題になっていますね。

 

第5回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、ミルトン・フリードマンMilton Friedman, 1912-2006)、ジョージ・スティグラー(George Joseph Stigler, 1911-1991)、ゲーリー・ベッカー(Gary Stanley Becker, 1930-2014)で、三人とも「シカゴ学派」の経済学者ですね。

この中でもフリードマンは、経済学的には「マネタリズム」、政治学的には「新自由主義」を唱えた最重要人物です。

フリードマン率いるシカゴ学派は、ジョン・メイナード・ケインズJohn Maynard Keynes, 1883-1946)から始まる「ケインズ経済学」を徹底的に批判し、「反ケインズ革命」を成し遂げることになります。

この授業では「恒常所得仮説」「新貨幣数量説」「自然失業率仮説」が取り上げられていましたが、1962年の『資本主義と自由』で「政府が手がけてはいけない政策」として挙げられている項目が興味深かったので、少し長くなりますが列挙してみたいと思います。

 

①農産物の買い取り保障価格制度

②輸入関税または輸出制限

③商品やサービスの産出規制

④物価や賃金に対する規制・統制

⑤法定の最低賃金や上限価格の設定

⑥産業や銀行に対する詳細な規制

⑦通信や放送に関する規制

社会保障制度や福祉

⑨事業・職業に対する免許制度

公営住宅および住宅建設の補助金制度

⑪平時の徴兵制

⑫国立公園

⑬営利目的の郵便事業の禁止

⑭国や自治体が保有・経営する有料道路

 

フリードマンは、徹底して「小さな政府」を求めたのですね。

この新自由主義に基づいて、イギリスでは1979~1990年にマーガレット・サッチャー(Margaret Hilda Thatcher, 1925-2013)首相が、アメリカでは1981~1989年にロナルド・レーガン(Ronald Wilson Reagan, 1911-2004)大統領が、日本では1982~1987年に中曽根康弘(なかそね・やすひろ)首相が改革を行いました。

2001~2006年に小泉純一郎(こいずみ・じゅんいちろう)首相が行った「聖域なき構造改革」も、新自由主義に基づいた改革です。

スティグラーは、産業組織論の分野で厳格な独占禁止政策に反対しました。

ベッカーは「人的資本理論」で知られ、経済学の分析手法を社会学などにも応用した経済学者です。

 

シカゴ学派は経済学界を席巻し、先進国では新自由主義に基づいた政策が行われるようになったわけですが、これが必ずしもうまくいっているかというとちょっと疑問です。

新自由主義は「古典的自由主義」への先祖返りなので、経済的格差の拡大や大不況の発生といった問題が復活してしまっています。

 

結局のところ、新自由主義にしろ社会自由主義にしろ、新古典派経済学にしろケインズ経済学にしろ、全面的に正しいと信じ込んで極端な方向性を打ち出すと、おかしなことになってしまうように思います。

今のところ、短期についてはケインズ経済学、長期については新古典派経済学に分がある感じがしていますが、短期の政策を長期に当てはめようとしたり、長期の政策を短期に当てはめようとしたりすると、間違った政策になってしまうのではないでしょうか。

景気変動は短期の問題なのでケインズ経済学的アプローチで、経済成長は長期の問題なので新古典派経済学的アプローチで考えるべきであるように思います。

何事も「中庸」が大切で、偏った考え方は間違っている可能性が高いと私は考えています。