UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

放送大学『現代経済学('19)』第14~15回

録画しておいた放送大学『現代経済学('19)』の第14~15回を視聴しました。

 

第14回では、アメリカ経済学会により40歳以下の経済学者に与えられるジョン・ベイツ・クラーク賞(John Bates Clark Medal)について紹介されていました。

取り上げられていたクラーク賞受賞者は、デヴィッド・カード(David Edward Card, 1956-)、スティーヴン・レヴィット(Steven David Levitt, 1967-)、マシュー・ラビン(Matthew Joel Rabin, 1963-)、エスター・デュフロ(Esther Duflo, 1972-)、ラジ・チェティ(Nadarajan "Raj" Chetty, 1979-)、マシュー・ゲンツコウ(Matthew Gentzkow, 1975-)で、「実証経済学(positive economics)」や「行動経済学(behavioral economics)」の分野で功績のあった経済学者たちです。

 

この中で日本でも名前が知られている経済学者と言えば、やはり『ヤバい経済学―悪ガキ教授が世の裏側を探検する(Freakonomics: a rogue economist explores the hidden side of everything)』がベストセラーとなったレヴィットでしょうか。

私が興味があるのは、カードとアラン・クルーガー(Alan Bennett Krueger, 1960-2019)による最低賃金引き上げについての分析ですね。

最低賃金を引き上げると、最低賃金で働いていた労働者の雇用が失われてしまうと考えられていますが、この共同研究によれば、最低賃金を引き上げても必ずしも雇用は減少しないということのようです。

急激に引き上げたりしなければ、雇用を悪化させることなく、低賃金労働者の所得向上を図ることができるかもしれません。

日本の最低賃金も、全国平均(あるいは、全国一律)で時給1000円程度まで引き上げる必要があるのではないでしょうか。

 

第15回では、ノーベル経済学賞を取り逃した経済学者について紹介されていました。

取り上げられていた経済学者は、ロイ・ハロッド(Roy Forbes Harrod, 1900-1978)と森嶋通夫(もりしま・みちお、1923~2004年)です。

 

2017年までのノーベル経済学賞受賞者79名のうち、アメリカ国籍は54名で全体の68%を占めています。

また、受賞時の在籍大学はシカゴ大学が13名となっており、シカゴ学派に属する経済学者が多く受賞していることがわかります。

残念ながらノーベル経済学賞は、新自由主義的な経済学にお墨付きを与える役割を果たしてきたのですね。

市場経済や資本主義に疑問を呈するような研究であれば、本人の意図はどうであれ、ノーベル経済学賞の受賞は難しくなってしまう。

ジョーン・ロビンソン(Joan Violet Robinson, 1903-1983)、ニコラス・カルドア(Nicholas Kaldor, 1908-1986)、ピエロ・スラッファ(Piero Sraffa, 1898-1983)、ミハウ・カレツキ(Michał Kalecki, 1899-1970)といった、イギリスで活躍したケインズ経済学者たちもことごとくノーベル経済学賞を取り逃しています。

 

ハロッドはケインズ経済学を動学化し、現在では「ハロッド=ドーマー・モデル」と呼ばれている経済成長理論を構築した経済学者です。

この理論では、安定的な経済成長率の実現は非常に困難という「不安定性原理(ナイフエッジ原理)」が導き出されてしまうので、これがノーベル経済学賞を取り逃す原因となったのかもしれません。

ノーベル経済学賞の功罪については様々な考え方があると思いますが、私は森嶋教授が語ったという言葉が結構重いように感じました。

 

「まあ、ノーベル経済学賞なんか、ないほうがいいね」

 

この『現代経済学('19)』は、ノーベル経済学賞受賞者の生い立ちや学問業績を振り返りながら、現代の経済学の潮流が学べるというとても面白い科目でした。

現代の経済学は行動経済学や実証経済学など、反証可能性のある科学として進化を続けているということがわかりました。

放送大学の講義は無料で視聴できるので、現代の経済学に興味がある方は再放送をチェックしてみてはいかがでしょうか。

放送大学『現代経済学('19)』第12~13回

録画しておいた放送大学『現代経済学('19)』の第12~13回を視聴しました。

 

第12回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、バーノン・スミス(Vernon Lomax Smith, 1927-)、ウィリアム・ヴィックリー(William Spencer Vickrey, 1914-1996)、アルヴィン・ロス(Alvin Elliot Roth, 1951-)で、三人とも「マーケットデザイン」の分野で功績のあった経済学者です。

 

スミスはエドワード・チェンバレン(Edward Hastings Chamberlin, 1899-1967)の経済実験を発展させ、「実験経済学(experimental economics)」と呼ばれる分野を確立しました。

ヴィックリーはオークション理論の分野で、「ヴィックリー・オークション(Vickrey-auction)」とも呼ばれる「二位価格オークション(second-price auction)」が、入札者が評価額を正直に入札する優れた方式であることを証明しました。

ロスはマッチング理論の分野で、ノーベル経済学賞を共同受賞することになるロイド・シャープレー(Lloyd Stowell Shapley, 1923-2016)が考案した「受入保留方式」と呼ばれるマッチング方法を活用し、病院と研修医のマッチング、学校と生徒のマッチングなどの問題を解決しました。

 

第13回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、ハーバート・サイモン(Herbert Alexander Simon, 1916-2001)、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman, 1934-)、リチャード・セイラー(Richard H. Thaler, 1945-)で、三人とも「行動経済学(behavioral economics)」の分野で功績のあった経済学者です。

 

サイモンは人間の合理性には限界(限定合理性)があり、「ヒューリスティクス(heuristics)」と呼ばれる経験則を用いて様々な選択を行っていることを明らかにしました。

カーネマンは、サイモンの理論を発展させて「行動経済学」と呼ばれる分野を確立した心理学者です。

合理的判断に基づいた最適解と経験則に基づいた現実解の間には「バイアス」による乖離があり、このことから「プロスペクト理論(Prospect theory)」と呼ばれる意思決定モデルを構築しました。

例えば、100%の確率で100万円もらえる選択肢Aと、80%の確率で200万円もらえるが20%の確率で1円ももらえない選択肢Bを選ばせると、多くの人は選択肢Aを選ぶ傾向があります。

数学の「期待値」の考え方を知っていれば、選択肢Aの期待値は100万円、選択肢Bの期待値は160万円であり、選択肢Bを選んだ方が得であることは明らかなのですが、人間は必ずしも合理的に判断するとは限らないのですね。

セイラーは「心理会計(メンタルアカウンティング)」や「ナッジ理論」など、行動経済学の発展に大きく貢献しました。

 

「経済学は現実には役に立たない」と言われることも多いですが、現在の経済学は、マーケットデザインや行動経済学といった「使える学問」として発展しているのですね。

この科目の主任講師である依田高典(いだ・たかのり)京都大学大学院経済学研究科教授も、専門は行動経済学であるようです。

 

伝統的な経済学では、経済的合理性に基づいて個人主義的に行動する「経済人(ホモ・エコノミクス、homo economicus)」が想定されているのですが、行動経済学はこれを真っ向から否定しているわけです。

当然のこととして、当初は経済学界からの風当たりが強く、ノーベル経済学賞受賞者のマートン・ミラー(Merton Howard Miller, 1923-2000)は「どの世代にも、間違った者が必ずいるものだ」と言ったんだとか。

 

考えてみれば、物理学者のアルバート・アインシュタイン(Albert Einstein, 1879-1955)だって、「神はサイコロを振らない」と言って量子力学を受け入れようとしなかったわけですよね。

新しい学問分野が受け入れられていく過程というのは、案外そのようなものなのかもしれません。

ですから、既存の学問を絶対視するのではなく、学問は常に発展して書き換えられていくものだということを念頭に置いておくことが、とても重要なのではないかと思います。

放送大学『現代経済学('19)』第10~11回

録画しておいた放送大学『現代経済学('19)』の第10~11回を視聴しました。

 

第10回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、グンナー・ミュルダール(Karl Gunnar Myrdal, 1898-1987)、フリードリヒ・ハイエク(Friedrich August von Hayek, 1899-1992)、アマルティア・セン(Amartya Sen, 1933-)で、三人とも「社会経済学」の分野で功績のあった経済学者です。

 

ミュルダールは「累積的因果関係論」と呼ばれる分析手法を用いて、制度経済分析を行いました。

累積的因果関係論は、現代のシステム理論では「ポジティブ・フィードバック」と呼ばれています。

ハイエクは、1944年の『隷属への道(隷従への道、The Road to Serfdom)』であまりにも有名ですね。

本来はミュルダールの単独受賞の予定だったようですが、社会主義的なミュルダールとバランスを取る形で自由主義的なハイエクとの同時受賞となったようです。

センは、アジア人初のノーベル経済学賞受賞者です。

センの「潜在能力(ケイパビリティ、capability)」の発揮という観点から作られたのが、国際連合開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)の「人間開発指数(Human Development Index:HDI)」です。

ちなみに、2017年の上位10ヵ国は、ノルウェー、スイス、オーストラリア、アイルランド、ドイツ、アイスランド、香港、スウェーデンシンガポール、オランダで、日本は第19位となっています。

 

第11回で取り上げられたノーベル経済学賞受賞者は、ダグラス・ノース(Douglass Cecil North, 1920-2015)、トーマス・シェリング(Thomas Crombie Schelling, 1921-2016)、アンガス・ディートン(Angus Stewart Deaton, 1945-)で、三人とも経済学を歴史学政治学といった隣接領域にまで拡大した経済学者です。

 

ノースは「計量経済史(数量経済史、cliometrics)」と呼ばれる、統計学や経済理論を応用して経済史を研究するという学問分野を確立しました。

シェリングゲーム理論政治学に応用し、1963年の『紛争の戦略(The Strategy of Conflict)』で有名です。

ディートンは、2013年の『大脱出:健康、お金、格差の起原(The Great Escape: Health, Wealth, and the Origins of Inequality)』で知られています。

 

第10~11回で取り上げられた経済学者のうち、最重要人物はやはりハイエクでしょうか。

新自由主義ネオリベラリズム、neoliberalism)やリバタリアニズム自由至上主義、libertarianism)といった思想の源流となっている人物であり、ジョン・メイナード・ケインズJohn Maynard Keynes, 1883-1946)とは激しい論争を繰り広げました。

以前に「イデオロギーをブッ飛ばせ!!」の記事で書いたとおり、私は共産主義(communism)、国家社会主義(national socialism)、国家資本主義(state capitalism)は全体主義だと考えています。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

しかし、個人主義を追求して新自由主義リバタリアニズムを推し進めていくと、共同体が破壊され、国民の連帯が失われ、結局は全体主義を招き寄せてしまうのではないかと危惧しています。

自由を追い求めていたはずが、結局は自由を失ってしまうという「自由至上主義パラドックス」みたいなものが存在するのではないでしょうか。

「自由であれば、平等でなくてもよい」とか「平等であれば、自由でなくてもよい」といった極端な考え方を持つ人はあまり多くないでしょうから、自由と平等のバランスをとった社会が良いのではないかと思います。

そのような考えから、私は新自由主義政党と社会自由主義政党+社会民主主義政党の二大勢力が適度に政権交代を繰り返すような政治状況が望ましいと思っています。