UNEMPLOYED ECONOMICS

失業中で暇な人が経済学を学んでいくブログです。

日本は20年以上デフレが続いている・・・って、本気で言ってるの!?

ネット上では、「日本は20年以上デフレが続いている!」という主張がしばしば見られます。

長期間にわたってデフレが続いているので、「デフレ脱却のために、日本銀行の金融緩和や政府の財政出動が必要だ!」というわけですね。

 

デフレというのは「デフレーション(deflation)」の略で、持続的に物価が下落していく経済現象のことです。

国際決済銀行(Bank for International Settlements:BIS)や国際通貨基金International Monetary FundIMF)では、デフレを「少なくとも2年間の継続的な物価下落」と定義しています。

しかし、日本の内閣府では、デフレを「持続的な物価下落」と定義しており、2年を待たずにデフレと判断することもあるので、とりあえずは「持続的に物価が下落すること」をデフレと考えておけば良いかと思います。

 

・・・というわけで、総務省統計局ホームページで消費者物価指数(Consumer Price Index:CPI)の上昇率(前年比)を調べてみました。

 

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出典:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)

 

総務省統計局ホームページには1970年からのデータが掲載されていますが、今回は1996~2020年のグラフを作成してみました。

CPIから生鮮食品を除いたものを「コアCPI」、酒類以外の食料とエネルギーを除いたものを「コアコアCPI」と呼びます。

政府や日銀では、基本的にコアCPIを判断基準にしているようですが、近年ではコアコアCPIも重視されるようになっています。

1997・2014・2019・2020年の消費者物価上昇率には、消費税引き上げの影響が含まれていますのでご注意ください。

 

1999年のCPI上昇率が前年比-0.3%、コアCPIが0%、コアコアCPIが-0.1%となっており、以降はマイナスの年が多く続いていることから、1998年くらいから日本経済はデフレに突入したと考えればよさそうです。

問題は今でもデフレが続いているかどうかなのですが、2013年のCPI上昇率が前年比0.4%、コアCPIが0.4%、コアコアCPIが-0.2%となっており、以降はプラスの年が多く続いていることから、2013年くらいに日本経済はデフレではなくなった *1 と考えればよさそうです。

日本経済がデフレに苦しんだのは15年間くらいで、もう8年くらい前にすでにデフレではなくなっているのですね(苦笑)

 

では、すでにデフレではなくなっているにもかかわらず、なぜ「日本は20年以上デフレが続いている!」などという主張をしているのでしょうか?

もちろん、単純に事実を知らないという可能性もありますが、一つ考えられるのは、デフレという用語を「物価の下落」という意味で使っていないということです。

日本の内閣府(旧経済企画庁)では、2001年までデフレを「物価下落を伴った景気の低迷」と定義していました。

この20年前まで使われていた定義から転じて、「景気の低迷=デフレ」という誤用をしている人が多いものと思われます。

もちろん、「日本は20年以上景気の低迷が続いている」という事実もありませんので、どちらにしろ間違った主張であることに変わりはありません。

 

デフレの定義にしろ、消費者物価上昇率にしろ、ちょっと調べればすぐにわかることでしょう。

そのような最低限の事実確認すらせずに、「日本は20年以上デフレが続いているので、日銀の金融緩和や政府の財政出動が必要だ!」といった主張を繰り返しても、説得力がまったくないことは言うまでもありません。

むしろ、デフレではなくなっても日本経済の低成長は続いているわけですから、「日本経済の停滞はデフレが原因であり、人為的にインフレを起こすことで復活させることができる!」という考えが間違いであったのだろうと考えることができます。

 

ネット上では、様々な人が様々な経済論議を繰り広げています。

事実を基にきちんとした議論をしている人もいますが、そうではない人が多いことも残念ながら確かです。

ネット上の怪しげな経済論に騙されないよう、正しい事実認識から始めることが大切ですね。

 

経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する出来合いの対処法を得るためではなく、そのようなものを受け売りして経済を語る者にだまされないようにするためである。

(ジョーン・ロビンソン(Joan Violet Robinson, 1903-1983))

*1:ただし、政府は「デフレ脱却4指標」を基に、「現状はデフレではないが、デフレ脱却していない」と判断しています。

『ポストケインズ派経済学入門』

『ポストケインズ派経済学入門』(マルク・ラヴォア著、ナカニシヤ出版)を読了しました。

 

 

ポストケインズ派経済学(Post-Keynesian economics)というのは、新古典派経済学(Neoclassical economics)や新ケインズ派経済学(ニューケインジアン、New Keynesian economics)といった「主流派経済学」に対し、「異端派経済学」と呼ばれている経済学派の一つです。

異端派経済学には、他にもマルクス経済学(Marxian economics)や制度学派経済学(Institutional economics)など様々な学派がありますが、その中でもジョン・メイナード・ケインズJohn Maynard Keynes, 1883-1946)の研究業績を基盤として発展しているのがポストケインズ派経済学です。

ケインズ派経済学(ニューケインジアン)もケインズの研究業績を基盤として発展している経済学ですが、新ケインズ派とポストケインズ派では名前は似ていても、その学問的主張は大きく異なるので注意が必要です。

ポストケインズ派経済学に大きな影響を与えている経済学者としては、ケインズの他、ロイ・ハロッド(Roy Forbes Harrod, 1900-1978)、ジョーン・ロビンソン(Joan Violet Robinson, 1903-1983)、ニコラス・カルドア(Nicholas Kaldor, 1908-1986)、ミハウ・カレツキ(Michał Kalecki, 1899-1970)、ピエロ・スラッファ(Piero Sraffa, 1898-1983)などが挙げられます。

ポストケインズ派経済学には、ファンダメンタリストケインズ原理主義)、スラッファ派(新リカード派)、カレツキ派という三つの異なる潮流がありますが、本書はカレツキ派を重視して書かれているようです。

カレツキはケインズに先んじて「有効需要の原理」を発見していたとされ、知名度ではケインズにはるかに劣りますが、経済学上の重要人物の一人ですね。

 

では、この本でどのようなことが解説されているかわかるように、目次を紹介しておきたいと思います。

 

Ⅰ ポストケインズ派という異端

Ⅱ 異端派ミクロ経済学

Ⅲ マクロ経済的貨幣サーキット

Ⅳ 短期:有効需要労働市場

Ⅴ 長期:古い成長モデルと新しい成長モデル

 

私が最も興味を惹かれたのは、第Ⅲ章「マクロ経済的貨幣サーキット」ですね。

ここで論じられているのは、いわゆる「内生的貨幣供給理論」です。

新古典派経済学が貨幣供給を外生的だと考えているのに対して、ポストケインズ派は貨幣供給を内生的だと考えています。

貨幣供給が外生的なのであれば、中央銀行は金融調節することによって通貨供給量マネーストック)をコントロールすることができますが、貨幣供給が内生的なのであれば、中央銀行通貨供給量をコントロールすることができません。

現在の日本で行われている「アベノミクス」のベースとなっている「リフレ理論」では、貨幣供給を外生的と考えています。

リフレ派が激しく攻撃していた「日銀理論」は、貨幣供給を内生的と考えていました。

「異次元の金融緩和」政策が実施されたことにより、どちらが正しかったのかはもはや明らかでしょう。

貨幣供給は内生的であるため、中央銀行通貨供給量をコントロールすることができず、量的金融緩和政策にはあまり効果が無いということなのだと思います。

 

もし、貨幣供給が内生的であるのであれば、市中銀行は預金を貸し出しているのではなく、貸出が預金を創造しています。

ということは、企業が投資を行うために国民が貯蓄を行う必要はありません。

「貯蓄→投資」ではなく「投資→貯蓄」であるため、企業の投資が国民の貯蓄を増やすということになります。

企業が投資を行うために国民が貯蓄を行う必要がないのであれば、貯蓄にインセンティブを与える税制も必要ありません。

消費課税の場合は消費しなければ課税されないので、貯蓄に対するインセンティブを高めることになりますが、むしろ消費を減らしてしまうので経済にとってはマイナスであるということになります。

これまでの日本で採用されてきた「所得税を減税して、消費税を増税する」という方針は、根本的に間違っているのかもしれませんね。

 

本書は「入門」と銘打っているものの内容的には高度で、経済学の基本的な知識が無いと読みこなすのは難しいのではないかと思います。

私も完全に理解できているわけではありませんが、新古典派経済学は単純でわかりやすいが非現実的、ポストケインズ派経済学は現実的だが複雑でわかりにくいという印象を持ちました。

新古典派経済学も、非現実的ではあってもシンプルなモデルから議論をスタートしているというだけであって、すべて間違っているということはないでしょう。

とりあえず内生的貨幣供給理論を全面的に取り入れることで、経済学はより正しい方向へ進化すると思うんですけどねぇ・・・。

国の一般会計税収(1989~2019年度)

いまだにネット上には、「消費税を増税すると、経済が悪くなって税収が減る!」などと主張している人たちがいるのですね(呆)

 

実際のところどうなのかは、国の一般会計税収をグラフにしてみれば一目瞭然です。

以前にも「国の一般会計税収(1989~2015年度)」という記事でグラフにしているのですが、最新の2019年度まで拡大してグラフを再作成してみました。

 

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出典:国税庁国税庁統計年報」、財務省租税及び印紙収入決算額調

 

国の一般会計決算を基にした、租税及び印紙収入と所得税収・消費税収・法人税収の推移です。

財務省ホームページにはなぜか2016年度以降のデータしか掲載されていませんので、それ以前の分は、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業と国税庁ホームページのデータを基にしています。

 

皆さんご存じの通り、2014年度から消費税は8%に増税されましたが、はたして税収は減っているでしょうか?

消費税収が10.8兆円(2013年度)→18.4兆円(2019年度)に増えているのは当たり前として、所得税収も15.5兆円(2013年度)→19.2兆円(2019年度)に、法人税収も10.5兆円(2013年度)→10.8兆円(2019年度)に増加し、租税及び印紙収入は47.0兆円(2013年度)→58.4兆円(2019年度)へと大幅増になりました。

「消費税を増税すると、経済が悪くなって税収が減る!」というのは、真っ赤なウソであることが分かりますね。

 

1990~2000年代については確かに税収が長期的に減少しているようですが、これは所得税法人税を減税したことによるものです。

このあたりは、「国の一般会計税収(1989~2015年度)」の記事にまとめていますので、そちらをご覧ください。

 

unemployed-economics.hatenablog.jp

 

2014年度からの消費税増税は、2012年に民主党政権下で取り決められた、民主党自由民主党公明党による「三党合意」に基づいて行われました。

自由民主党政権下での消費税増税では、所得税法人税減税がセットで行われていましたが、三党合意では所得税最高税率引き上げなども協議されていたんですよね。

当時の報道では、民主党最高税率を40→45%に引き上げ、自民党が引き上げに反対、公明党が40→50%に引き上げを主張していたと思います。

結局は、2015年から最高税率が45%に引き上げられ、全く不十分ながらも累進課税の強化が行われることになりました。

自民党政権下では、1999年に最高税率が37%にまで引き下げられていたのですから、長期的な日本経済の停滞も相まって、所得税収が減少してしまっていたのですね。

 

私たちが経済や経済学について学ばなければならないのは、経済について平気でウソをつく人たちがおり、そのような人たちに騙されないようにする必要があるからです。

本格的に経済学について勉強しなかったとしても、データを調べればあっさりウソだとわかるケースがほとんどです。

ネット上には、経済についてのいろいろな考え方が飛び交っていますが、それがどんなにわかりやすいものだったとしても、「それって、本当かな?」と立ち止まって考えてみることも大切なのではないかと思います。

 

経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する出来合いの対処法を得るためではなく、そのようなものを受け売りして経済を語る者にだまされないようにするためである。

(ジョーン・ロビンソン(Joan Violet Robinson, 1903-1983))